冕服龕室
 朝鮮の王室祭礼は正殿と永寧殿で各々別に執行された。正殿では毎年春、夏、秋、冬、そして陰暦12月に、永寧殿では毎年春、秋、陰暦12月に日を決めて祭礼を行った。しかし、現在の宗廟祭礼は宗廟祭礼保存会により毎年5月第一日曜日に決めて挙行されている。宗廟祭礼の前、王と王妃は文武百官と共に宗廟を一周した。今日受け継がれている御駕行列も昔の通り宗廟祭礼の前に挙行して荘厳な王室儀礼を国民の祝祭と昇華させている。このように宗廟儀礼を国民の儀礼と見立てる理由は何だろうか。宗廟が王族である全州李氏の祠堂だから宗廟祭礼を王室である祖先を慕う家族儀式と観るかも知れない。しかし、王室即国家であった朝鮮時代の宗廟祭礼は永遠に国家的儀礼だと呼ぶことも可能だ。

 宗廟祭礼は儒教国家の位相を高めるために徹底した儒教的節度に従った。祭礼は吉礼の一つで宗廟祭礼に参与する人は祝日に着る礼服を着た。祭礼を執り行う王は帝王の威容を象徴する冕服を着用したが、冕服とは冕旒冠と制服を合わせた大礼服のことである。朝鮮時代には九章冕服を使用したが、大韓帝國時代からは十二章服を着るようになり今に至っている。十二承服には日、月、竜、火、雉子等12種類の紋様が刺繍されている。此の紋様は皇帝の権威を象徴するもので、天の意志を受け継ぎ百姓に善政を施すと云う意味だ。

 また、冕旒冠は長方形の生地に色んな色の玉をぶら下げた1種の帽子である。冕旒冠の前方に垂れ下がった玉の筋が視野を若干妨げ臣下の短所をある程度黙認する王の雅量を象徴するとされる。祭礼は神を迎える礼、神が楽しむ順序、神からの恵みを頂く順序、神を奉送する順序と節度ある厳粛な進行を図る。 御駕行列が到着すると本格的な儀礼が始まる。先ず正殿の南門から祝函が神路を経て到着するや、荘厳な音楽と舞踊が行事の開始を知らせる。

 王の代りを努める初獻官が正殿に移動する。祖先の神霊を迎えるには身と心を清めねばならないが、盥洗儀式がそれである。盥洗の後祭官は予め決められた場所へ行くが、これを就位と云う。祭礼の神の魂は龕室に祀ってあるが、この位牌を祭礼が行われる神室ヘ移す儀式が宗廟祭礼の中で最も聖なる、貴とい瞬間である。王の位牌には名前と亡くなった日が記されてをり、普通栗の木で作り上は円く下方は角をつける。位牌と共に御宝(王の印章)と御册も一緒に保管されている。王の印章は貴重な動物とされる亀の形をして王の権威を象徴する。御册は王と王妃、皇太子と皇太子妃を冊封した時の教書のことで、王と王妃の教書は玉に刻み皇太子と其の妃の教書は竹に刻む。

 天と地と人が一体となり調和を遂げる宗廟祭礼。 蝋燭が燃える正殿の静寂の中に祖先とその子孫の間には見えざる共感が交流する。